加藤ゼミナールの薦め
今日から十月となりました。
75期司法修習生は、書類の提出を終え、一息ついているところでしょうか。
今回の記事で、改めて、何故自分が司法試験に合格できたのか、(加藤ゼミナールの)加藤先生の過去問分析講義がどのように役にたったのか、思うところを語りました。
一合格者として、司法試験受験生向けの予備校として、加藤ゼミナールをおすすめしたいと思います。
私は、前年度の司法試験論文式試験に1500番台で不合格となった後、過去問を中心に勉強をしてきました。
一般的な司法試験予備校は、学習者向けの講座は、大抵、予備校の答練の解説をする、というものです。
しかしながら、本試験に向けた学習としては、過去問分析が最適である、と私は信じておりました。
実際に、予備試験の論文式試験、口述試験も過去問分析が奏功しました。
そして、試験直前期となった五月、加藤喬先生の令和二年司法試験解説講義の存在を知りました。
一般的に、試験直前期は、新しいものに手を出すべきではない、と言われます。
ただ、司法試験対策として過去問分析が最適だと確信していた私は、加藤先生の解説講義が本試験の対策に直結すると思いました。
そこで、加藤先生の講義を購入し、動画で聴講しました。
内容は、期待を上回るものでした。
特に、『この程度書ければ、大体百番以内』、『ここまでは、ほとんどの受験生が書けないので、特に書けなくても問題ない』という旨の発言をしてくださったことが、とても励みになりました。
加藤先生は、YouTube動画で、本試験(令和三年司法試験)の解説を公開されていますが、その公開動画よりも、令和二年司法試験解説講義の方が、内容が濃いと私は感じました。有料の講義として、購入する価値はあったと私は思っております。
直前期に、本試験への方向性を確かなものにするという意味でも、加藤先生の講義を聴いて、本当に良かったと思っております。
余談ですが、私は加藤先生の当該講義を、本試験終了後、合格発表前に再度視聴し、自分の本試験における思考の方向性が間違っていないことを確信しました。
司法試験受験の勝因は、主に過去問分析にあると考えております。
特に、一通り司法試験の勉強を終えて本試験に臨んだにも関わらず不合格となってしまった方は、過去問分析が甘い可能性が高いので、加藤先生の過去問解説講義を受講されることをお勧めします。
令和三年司法試験の成績
令和三年司法試験の成績通知を受け取りました。
最高に良い成績ではないけれど、それほど悪すぎて嘆くような成績でもない、と感じました。
ざっくりとした再現答案をブログにアップしたので、成績は、有料でアップしようかと考えていました。
ですが、読者の方は、やはり再現答案に対応する成績も知りたいでしょうから、(何より私が読者ならそう思います)ざっくりとした成績をここでアップしようと思います。
AA BBB BA
でした。選択科目(倒産法)は、55点台でした。
論文順位、総合順位共に、600点台です。
写真付きのものは、やはり当初の想定通りnoteにて有料でアップしようかと思います。
この点は、異論があるかと思いますが、私個人の自由にやらせていただいているブログということで、ご理解いただきたいと思います。
令和三年司法試験の成績
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令和三年司法試験 合格者再現答案について
司法試験受験生として、曲がりなりにもブログを執筆してきた者として、再現答案を公開することにいたしました。
私も、受験時代、多くの人の再現答案をブログで拝読し、合格への道しるべとさせていただきました。
真摯に勉強なさる受験生の方々の、参考になれば幸いです。
現状、倒産法以外を無償で公開しておりますが、成績通知後は、成績と共に、有償で公開することも考えております。
どうぞ、しばらくの間、当ブログにて、ご覧ください。
令和三年司法試験 合格者再現答案 刑事系
令和三年 刑事系
刑事系 第一問 予想 A(またはB)
第一 設問1
1、丙の罪責
(1)丙について、甲がB店内の時計を持ち去った行為について、窃盗罪の共同正犯が成立しないか。
まず、甲について窃盗(235条)が成立するか、問題となる。
窃盗罪の成立には、「他人の財物」を「窃取」したことが必要である。
ここで、窃盗罪は、究極的には財産の所有権を保護するものであるが、そのために一応の占有を保護するべきであるから、「他人の財物」とは、「他人の」占有する「財物」をいう。
甲が持ち去った対象である腕時計は、甲にとって「他人の」占有に属するか。
甲と意思を通じて行為を援助した丙に占有が認められる場合には、甲にとって「他人の」占有といえない。
ここで、甲と意思を通じた丙はB店の副店長として、店内の腕時計を含む商品の売上金を管理している。
しかし、店内の腕時計の入ったショーケースの鍵は、丙のみならずCも所持している。また、商品の店外への持ち出しについて丙に権限はなく、Cの承認を得る必要があった。
さらに、店内にたとえ丙しかいなくても、防犯カメラによって店内の様子が撮影録画され、店内の様子が把握されていたといえる。
このことから、店内の腕時計は、丙の占有のみならず、Cの占有も認められる。
したがって、腕時計は「他人の」占有する「財物」であると認められる。
(2)そして、甲が、丙と意思を通じて強盗を装い、B店から腕時計を持ち去った行為は、他人の意思に反して他人の占有を排除し自己の占有に移す行為といえ、「窃取」したといえる。
(3)丙は、甲と意思を通じて甲が店内の腕時計を持ち去ることを、計画し、実際に強盗を装うことによって、援助している。
このことから、丙には共同実行の意思及び共同実行の事実が認められる。
ゆえに、丙には窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立する。
2、甲の罪責
甲の行為は、上記のように窃盗に該当する。
そして、甲は丙との計画のもと、自らB店の腕時計を持ち去る行為をしている。自らも腕時計を換金することによって利益を得ることを目的としており、正犯意思が認められる。
このことから、甲には窃盗罪(235条)が成立する。
3、乙の罪責
(1)乙について、窃盗罪の共謀共同正犯が成立しないか。
当初の甲乙間の計画においては、店から時計を強取することを内容としており、乙は強盗を予定していたといえるため、問題である。
まず、乙について、共謀共同正犯が成立するためには、①共謀と②それに基づく行為が必要である。
そして(ⅰ)正犯意思と(ⅱ)意思連絡があった場合には、①共謀が認められる。
乙は、自らも金に困り、店から時計を奪い、それを換金することで利益を得ようとしていた。また、実際に甲がB店に向かう際に、車で送っていくという重要な役割を果たしている。このことから、正犯意思(ⅰ)がある。
また、これについて甲との間で意思連絡もある(ⅱ)。
よって共謀(①)が認められる。
また、甲は、B店に入り、時計を持ち去っている。これは、店員の丙の協力を得ており、暴行脅迫による強取という手段を用いていない点で、共謀の内容とは異なる。しかしながら、店から時計を持ち去る、という行為の主要な部分において、同一である。
よって、共謀に基づく行為(②)があったといえる。
(2)もっとも、乙は、甲との共謀により強盗(236条1項)の故意(38条1項)を有していたのであり、窃盗の故意は無かった。したがって、窃盗罪について、故意が阻却されないか。
そもそも故意責任の本質は、規範に直面したにも関わらずあえて犯罪行為に及んだ道義的責任非難にある。
そして規範は構成要件ごとに与えられている。
とすれば、主観と客観で構成要件に重なり合いが認められる場合には、その範囲で恋が認められるべきである。
ここで、乙の予定していた強盗と、実際に甲の行為によって生じた窃盗は、財物を奪う手段に、暴行脅迫を用いるか否かという点で異なる。
しかし、店の商品である腕時計を持ち去るという行為態様は同じであるし、腕時計の財産権を侵害するという点で被侵害法益は同じである。
よって、窃盗の範囲で、重なり合いが認められる。
このことから、窃盗の故意が認められる。
以上より、乙には窃盗の共謀共同正犯(60条、235条)が成立する。
4、丁の罪責
丁は、丙から盗品である本件バックを受け取っている。ここで、丁は、受け取った段階で本件バックを盗品であると認識しておらず、これを自己の所有物として譲り受けていない。
そのため、盗品無償譲受け罪(256条1項)は、成立しない。
また丁は、本件バックの保管を頼まれているも、保管開始時に盗品であると認識してしていない。
そのため、盗品保管罪(256条2項)も成立しない。
第二
1、問(1)
(1)この見解は、甲は当初の暴行について丙との共謀があったが、その後丙から暴行を受けて気絶したことによって共謀関係が解消され、その後の丙の暴行について責任を負わない、とする。
共犯の一部実行全部責任の根拠は、互いに物理的心理的に影響を及ぼし合い犯罪結果の危険を惹起する点にある。
そこで、共犯の離脱には、物理的心理的因果性が排除されていることが必要である。
本問において、甲は、当初乙への暴行を共謀していた丙の行為をやめさせようとしたところ、乙から暴行を受けて気絶している。
この場合、それ以後の乙の行為について物理的心理的に影響を及ぼすことは出来ないといえ、共犯の離脱が認められる。
したがって、甲は、気絶後の乙の暴行について責任を負わない。
本問の傷害結果について乙のみが責任を負い、甲は責任を負わない。
(2)同時傷害(207条)の成立には、複数の暴行が同一機会になされる必要があるところ、本問において、当初の甲と丙による乙への暴行と、その後の丙単独での暴行は、甲の気絶により、断絶されている。
よって、両者の暴行が同一の機会になされたとはいえず、同時傷害は適用されない。
2、問(2)
(1)この見解は、甲と丙との、乙に対する暴行についての当初からの共謀が、甲の気絶によって解消されていない、とする。
ここで、共犯の離脱は、物理的心理的に、その後の共犯の行為に影響を及ぼさないといえる場合に認められる。
本問において、甲は当初丙との間で乙に対して暴行を行うことを共謀しており、その後丙の暴行により気絶しているものの、その後も乙の暴行をやめるよう効果的な説得はしておらず心理的影響は除去していない。
よって、共犯の離脱は認められない。
ゆえに、甲の気絶後の丙の暴行について、甲の共謀共同正犯が成立する。
その結果、甲には、乙の傷害結果に関して刑事責任を負う。
(2)甲が、暴行の責任を負うため、同時傷害の規定(207条)は適用されない。
刑事系 第二問 予想 A
第一
1、①について
(1)本問の差押えは、捜索差押え許可状に基づくもの(218条1項)である。
かかる場合、本件の名刺の差押えが、「本件に関係ありと思料される」「名刺」の差押えである場合に、適法となる。
本件の名刺は、「丙組若頭丁」と記載されているところ、甲が乙と共謀し及ぼんだとされる被疑事実である本件住居侵入強盗と、「関係あり」といえるか、問題となる。
(2)本問において、本件住居侵入強盗を認めている甲は、乙の指示で犯行を行なったと自白している。
そして甲は強盗によって取得した500万円を乙に渡したこと及び甲と乙のアジトがあることを供述している。
さらに、乙の背後には指定暴力団である丙組がいて、乙はその幹部に、犯行で得た金の一部を貢いだ旨、供述している。
これらのことから、丙名義の名刺は、甲が乙に渡した、強盗による現金の渡った先を突きとめられる可能性のあるものといえ、本件住居侵入強盗と、「関係あり」といえる。
したがって、本件の差押え①は、捜索差押え許可状に基づくものとして適法である。
2、②について
(1)捜索差押え許可状による差押えは、いわゆる包括的差押えであり、違法とならないか問題となる。
ここで差押えは、令状に記載されたものとの関連性が認められる限りにおいて、差押えが認められるのであって、包括的差押えは原則として認められない。
しかし、①令状記載のものと関連性のあるものが存在する蓋然性が認められ、②その場で確認したのでは証拠が抹消される等により現実の差押えが出来ないといえる場合には例外的に包括的差押えが認められる。
(2)本問において、対象となったUSBメモリは、甲が言うアジトにあったものであり、甲はアジト内に強盗のターゲットになる名簿データが保存されたUSBメモリがあると言っていた。
このことから、このUSBメモリ内に、本件住居侵入強盗の被害者Vに関する情報が入っている蓋然性が高い。(①)
さらに、甲はアジト内のUSBには8桁の数字のパスワードがかかっており一度でも間違うと初期化されてしまうと言っていた。
そして、乙が捜索差押え現場で言ったパスワードは、『2222』であり、甲が言っていた8桁の数字ではないため、これを入力すると誤ったパスワードにより初期化される危険性が高い。
そのため、その場で確認したのでは証拠が抹消され、現実の適切な差押えができない可能性が高い。(②)
(3)以上より、包括的差押えは認められ、差押え②は適法である。
第二 問(1)
1、
本件メモが伝聞証拠に該当する場合には、伝聞法則(320条以下)により原則として証拠能力が排除される。
そこで、伝聞証拠該当性が問題になる。
そもそも伝聞法則とは、供述証拠が知覚、記憶、表現、叙述の間に誤りが介在する危険が高いことからこれを反対尋問によって是正する必要があるところ、これを経ない証拠を排除し、もって誤判防止を図る点にある。
とすれば、伝聞証拠とは、公判期日、公判準備期日以外になされた供述であっ
て(①)その供述内容が真実性の立証対象となっているもの(②)をいう。
そして、立証対象は、立証趣旨との関係で相対的に決するべきである。
本問における立証趣旨は、甲乙間における共謀であって、かかる立証趣旨は立証対象として妥当であり、認められる。
本問のメモは乙によって作成されたものであるから、これは乙の供述証拠と同視できる。そしてこれは公判期日外(①)においてなされたものである。
2、
本件メモ1の内容は、本件事件と、被害者、犯罪の行為態様、被害の内容において同一のことが書かれている。
かかるメモを閲覧、保有できるのは、事件に関与した犯人のみであるといえる。
そして、本件メモ1は、乙名義の建物内にあったUSB内にあったデータである。その上、乙が作成したものであることが判明している。
また上記の通り、甲は本件住居侵入強盗に及んだことを自白している。
3、
このことから、本件メモ1の存在自体が、甲と乙の共謀を推定するといえ、供述内容が真実性の立証対象(②)となっていない。
よって本件メモ1は伝聞証拠ではなく、証拠能力が認められる。
第三 問(2)
1、
本件メモ2は、伝聞証拠に該当し、相手方の同意(326条1項)のない本問においては伝聞法則(320条以下)により、証拠能力が排除されないか。
本件メモ2は、甲が作成したものであることから、甲の供述証拠と同視できる。
2、
そして、本件メモ2の内容は、本件住居侵入強盗の被害者である、「V」、被害の対象である「タンス」預金「500万円」、及びその場所である「台所しょっきだな」が記載されている。
さらに、Vが犯人に電話で伝えた財産といえる、「よきん2000万円」の記載がある。
また、犯人は、実際の犯行態様として、Vに催眠スプレーを吹き付け、ロープで身体を後ろ手に緊縛し、ガムテープで口を塞いでいることから、メモ内の「さいるいスプレー」「ロープ」「ガムテープ」「後ろ手」「口だけ」といった記載は、犯行態様についての記載であるといえる。
また、「乙から指示されたこと」との記載があることから、かかる犯行についてのメモが、実際に乙から指示されたことであれば、記載内容の真実性が立証対象となっているといえる。
このことから、本件メモ2は伝聞証拠であり、伝聞例外(321条1項3号)に該当しない限り証拠能力が認められない。
ここで、甲は、乙との共犯として本件被疑事実で起訴されているも、乙の公判においては、甲は「被告人以外の者」(321条1項柱書)であるため、321条1項3号の該当性について以下検討する。
3、
まず、現状において甲は、乙との共謀について供述を拒否しており、供述が得られる可能性は乏しい。このことから、供述不能状態にあるといえる。
また、本件メモ2は、甲と乙との共謀を推認する証拠であるところ、乙は共謀を否認しており、「犯罪の事実の証明に欠くことのできないもの」といえる。
さらに、甲は、本件メモ2を誰にも強制されずに書いている。その上、記載内容は、本件の客観的な被疑事実の犯行態様と同一である。
このことから、この記載は、「特に信用すべき状況の下にされた」(321条1項3号ただし書)といえる。
以上より、伝聞例外が認められ、本件メモ2の証拠能力が認められる。
以上
令和三年司法試験 合格者再現答案 民事系
令和三年 民事系
民事系第一問 予想 BからA
第一
1、アの主張
この主張は、甲をDが即時取得したことにより、Aが所有権を喪失したという主張である。
即時取得(民法、以下省略192条)とは、①平穏②公然③善意④無過失に、⑤取引行為によって⑥動産の占有を開始した場合に認められる。
ここで、①から③は、186条によって推定される。④は188条によって推定される。
本問でも、①から④は、推定され、これを覆す事情はない。
また、BD間で、売買契約という取引行為(⑤)がなされている。
そして、指図による占有移転(184条)によって、甲についてBからDに占有が移転している。
これは、動産占有を開始した(⑥)といえる。
よって、Dによる甲の即時取得が成立する。
2、イの主張
この主張は、指図による占有移転では、⑥動産の占有を開始したとはいえない、という主張である。
しかし、指図による占有移転でも、第三者である直接的に占有している者の認識をして、客観的に占有の移転が明確になっていると言えるため、⑥動産の占有を開始したと言える。
3、ウの主張
この主張は、盗品について即時取得をした者がいる場合でも、盗難から二年間の間は元の所有者が、占有の回復請求をすることが認められる(193条)、ということに基づく。
4、請求1について
Aは、甲を所有していたが、その後盗難にあい、上記のアイで検討したとおりDが即時取得している。
もっとも、盗難の時から二年以内である本問においては、ウで検討したように、Aは、Dに対して占有の回復請求が認められる。
よって、請求1は、認められる。
5、請求2
Aは、Cに対して、占有の開始から返還時までの使用利益相当額について不当利得返還請求(703条)をする。
Cが占有することにより「利益」を得る反面で、Aが使用ができないという「損失」を被っている。
もっとも、Cの使用利益が「法律上の原因」を欠くといえるか。
ここで、回復請求が可能な期間(193条)は、被害者である元の所有者に、所有権が帰属する。
よって、回復請求の相手である占有者の使用利益は、「法律上の原因」を欠くといえる。ゆえに、その使用利益相当額について、回復請求をする者の、不当利得返還請求は、認められる。
本問でも、Aの上記不当利得返還請求は、認められる。
第二
1、問(1)
契約①によるEの債務は、月額報酬60万円で、Eが、令和3年6月から10月までAの事業所で出張講座を開講するというものを内容とする。
この契約の性質は、EがAの指揮監督命令に服するものではなく、仕事の完成を目的とするものではない。Eが、契約の内容となる行為をするものであり、委任契約(643条)であるといえる。
2、問(2)
(1)請求3について
Eは、委任契約に基づく報酬請求権(648条1項)として、8月分の報酬60万円の支払いをAに求める。
ここで、Eはすでに8月分の講座を行なっているため、契約上の債務の履行後(648条2項)であるといえる。
これに対して、Aは、仕事の割合に応じて報酬請求が認められる(648条3項2号)以上、Eは、受講生がついていけない講座を行っており、予定された仕事を全ては履行しておらず、月額報酬全額を請求できない、と反論する。
しかし、受講生が本件講座についていけなくなったのは、受講生側に責任があり、Eには契約内容となった講座を予定通りに行ったのみで、責任は無い。
よって、Eは契約上の債務の履行を終了したといえ、上記の報酬請求が認められる。
(2)請求4について
Eは、自己に不利な時期に委任契約を解除された(651条2項1号)として、当初予定された期間の報酬分について、損害賠償請求をする。
Aは、Eの本件講座に受講生がついていけない、という、やむを得ない事情があった(651条2項)ため、損害賠償請求は認められない、と反論する。
ここで、本件講座の内容は、契約①の締結時の認識を基礎として、不相当なものではなく、解除がやむを得ない事情があったとはいえない。
また、Eは、当初予定した期間の間、本件講座を開講して、その報酬を受け取る合理的期待を有していたことから、期間終了前のAの解除は、Eに不利な時期になされた、といえる。
よって、Eの損害賠償請求は認められる。
第三
1、問(1)
Fは、本件債務を主債務とする保証契約(契約③)をHとの間で締結している。
この契約は、書面でなされており有効(446条2項1項)である。
もっとも、契約②の弁済期から五年が経過しており(166条1項1号)時効期間が経過している。
また、Fは連帯保証人であり、消滅時効の援用権を有する「当事者」である。
よって、Fは、時効を援用して、Hの請求を拒むことが認められる。
ここで、主債務者Aが本件債務の時効期間経過後に、Hに弁済の猶予を求める書面を送付しているが、これは合意(151条1項)にも、催告(150条)にもあたらない。また、時効の放棄にあたるとしても、連帯保証人のFには影響を及ぼさない。
よって、Fの時効の主張は認められる。
なお、100万円については、別個の契約によるもので、Fはこれを主債務とする保証契約を締結していない。よって、かかる100万円について、支払を拒むことができる。
2、問(2)
(1)
時効期間経過後、FH間の合意によってFがHに300万円を支払い、残額の免除を受けている。
これによって、主債務者A、他の保証人Gは、Hに対する債務を免れている。
そこで、まずFはAに対する300万円の求償請求をする。
Fは、委託を受けない保証人であるところ、主債務者に対して現に利益を受けた限度で求償請求をすることが認められる。(462条1項、469条の2第1項)
Aは、本件債務について消滅時効が完成しており、本件債務の免除について現に受けた利益が無い。
よってFのAに対する求償請求は、認められない。
(2)
Fは、他の保証人Gに対して、自己の弁済額を保証人の頭数で割った150万円の求償請求をする。
共同保証人は、求償請求が認められる。(465条1項、442条)
Fは負担分を超えて弁済しているため、他の保証人Gへの求償請求が認められる。
民事系第二問 予想 A
第一
1、甲社は、乙の履行請求を拒むため、本件連帯保証契約は利益相反取引(会社法356条1項3号)に該当し、取締役会の承認(365条1項)を得ていないため、違法無効である、と主張する。
そこで、まず利益相反取引に該当するか、検討する。
2、
Aは、甲社の代表取締役であり、甲を代表して、乙との間で、本件連帯保証契約を締結している。
ここで、本件連帯保証契約は、Aの乙に対する、金銭消費貸借契約に基づく債務を主債務とするものである。また、甲は、Aからかかる保証契約について何ら保証料を支払っていない。
このことを考慮すると、かかる連帯保証契約は、甲社の代表取締役Aが利益を得る反面、甲が損失を被る、という関係にあり、「株式会社」甲と、「取締役」Aとの「利益が相反する」(356条1項3号)といえる。
よって、本件連帯保証契約は、利益相反取引に該当し、取締役会の承認決議(365条1項)を得なかった点で、違法である。
3、
では甲は、本件連帯保証契約の違法による無効を、乙に対抗できるか。
ここで、取締役会の承認決議の不存在は、内部的事情であるため、通常取引の相手は、かかる事情を知り得ないことから、無効を対抗できないのが原則である。
しかし、取引の相手が当該違法事由について、悪意又は有過失である場合には、例外的に違法無効を対抗することが認められる。
本問において、乙は、本件連帯保証契約について、甲社の取締役会議事録の写しを求めているものの、Aからは、写しの代わりとして本件確認書の交付を受けたのみである。
そして、Aは取締役会議事録は、金融機関以外の相手に公開しておらず、他の取引先にも見せたことがない、と説明しているものの、乙としては、上記の利益相反取引という性質に鑑みると、議事録の写しによって取締役会の承認決議の存在を確認する必要性が高い。
にもかかわらず、乙社を代表するBは、Aが知名度の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし、乙社の事業規模が小さいことからAの機嫌を損ねて取引の機会を失うことを恐れて、議事録の確認をあきらめている。
かかる理由は、議事録の確認をあきらめ合理的理由ではなく、乙は必要な注意義務を怠ったといえる。
このことから乙は、過失が認められる。
ゆえに甲は、乙に無効を対抗することが認められる。
4、
さらに、本件連帯保証契約は、「多額」の「借財」に該当するため、取締役会の決議が必要である。
保証債務として負う5000万円という金額は、資本金1億円、負債額2億円、当該事業年度の経常利益2000万円という甲社にとっては、会社財政に与える影響が大きく「多額」といえるからである。また、保証債務は「借財」といえるからである。
したがって、この点において、取締役会の決議を経ていないという点でも、違法である。
第二、
1、
Cの本問の訴えにおいて、Cは、本件株式の発行により株主となった者は、株主名簿の名義人Aではなく、現実の出資者であるCであると主張する。
そこで、株主の確定の基準を、名義とするか計算とするか、問題となる。
2、
ここで、画一的な処理による事務処理上の便宜から、名義を基準とするのが妥当であるのが原則である。
しかし、本問の甲社のような非公開会社で、株主も限定的な会社においては、会社が、誰が現実の出資者であるかを把握しているのが通常である。
そこでかかる非公開会社においては、計算を基準とし、現実の出資者が誰であるか、及び議決権行使等の会社における株主としての言動を考慮して、株主を決するべきである。
3、
本問において、本件株式の現実の出資者はCである。
そして、Cが本件株式について剰余金の配当を受け取り、自己の所得として確定申告をしていた。
さらに本件株式についての議決権も、Cの意思表示としてなされていた。
かかる本件株式の乙社内の扱いについて代表取締役であるCは、認識していた。
このことから、本件株式の株主はCである。
よって、本問のCの上記主張は認められる。
第三
1、
Aは本件株式の株主として、本件決議に取消事由(831条1項)があるとして取消を求める訴えを提起する。
本件株主総会は、招集通知がなされている点(299条)については、適法である。
2、
(1)まず、株主D代理人Gの出席を認めなかった点が、株主の代理権行使(310条)の趣旨に反し、手続上の違法(831条1項3号)があると主張する。
ここで、代理人の要件を定款で定めることは、認められる。
本問においても定款で代理人を株主に限るとしており、かかる定款は有効である。そのため、株主以外のGを代理人として認めなかったことは、適法であるように思われる。
(2)しかし、議決権の代理行使(310条)は株主の意思の反映を可能な限り認めるために規定されてたものであり、代理人の要件は、総会屋等の株主総会の適切な運営を妨害する者を排除するために認められるものである。
このことから、定款で定めた要件を満たさない代理人であっても、総会の運営に支障をきたさないと認められる事情のある者については、代理権行使を認めるべきであり、これを認めないことは、310条の趣旨に反し違法である。
(3)本問において、議決権の代理行使をしようとしたGは、弁護士であり、その立場上、株主総会において違法行為をしないことはもちろん不当行為もしないことが合理的に予測できる。
かかるGを、定款で定めた代理人の要件を満たさないという理由で、株主総会の議決行使を認めなかった議長Cの行為は、310条の趣旨に反し違法であり、議長の議事の進行(315条1項)について違法があるといえる。
3、
(1)次に、株主丙を代表して議決権行使をした者が、AでなくFである点が、代理権のない者に議決行使を認めたとして、議長Cの議事の違法(315条1項)がある、といえないか。
(2)ここで、丙社が、株主としての議決権行使を認めていたのは、AではなくFである。
このため株主総会決議において、Fによる議決権行使を認めるべきであるところ、Aの議決行使を認めた点について議長Cの議事進行に違法(315条1項)がある。
4、
さらに、本件修正議案をうけて候補者ごとに採決をするのではなく取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決をした点について、取締役の選任決議の規定(329条1項、309条1項)に反しないか問題となる。
ここで、選任決議において、可決要件を定めたのみで、その方法について候補者ごとに採決することを求めていない。
このことから、本問のように、候補者の二人のうち、いずれかの氏名を記載するという方法による採決によることも認められる。
この点に違法はない。
5、
上記の違法事由が無い場合、Gを代理人とするDの議決権行使が認められ、丙社についてFではなくAによる議決権行使が認められることになる。
その場合、株主総会の出席株主の議決権も数は50万個であり、そのうちCを取締役として選任することに賛成する議決権は10万個である。かかる場合、選任の可決要件(329条1項、309条1項)を満たさない。
よって、上記違法は、裁量棄却(831条2項)されない。
以上
民事系第三問 予想 B
第一 設問1
1、課題1
(1)Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えた立退料の支払との引換給付判決をすることは、処分権主義(民事訴訟法、以下省略する246条)に反し、違法ではないか。
処分権主義とは、当事者の申立事項と判決事項が一致しなければならないという原則である。
これは、私的自治の妥当する私法上の紛争の解決手段としての訴訟手続においても、当事者の意思を尊重するべきであることから、採用される。
(2)もっとも、①原告の合理的意思の範囲内であり、②被告の不意打ちとならない場合には、例外的に申立事項と異なる判決をすることも、処分権主義の趣旨を害さず認められる。
(3)本問において、引換給付判決がなされないとすると、請求棄却判決がなされる。かかる判決は、原告の合理的意思に反する。
原告Xとしては、本件土地上に息子Cの歯科医院用の建物を建築することを望んでおり、申出額よりも多額の立退料を支払ってでも、本件土地の明渡しを求めているといえるからである。
また、本件土地上でXが建築を予定している建物は、歯科医院であり、経営によって相当の収益が得られることが合理的に予想できるため、Xは申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料を支払うことが可能である。
このことから、Xの申出額と相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決がなされることは、原告の合理的意思の範囲内である。(①)
他方で、被告Yは、敗訴により、Xの申出額の立退料と引き換えに本件土地を明け渡すことを予測できたため、それよりも多額の立退料を得ることは、予測できた負担よりも利益が大きい。よって被告にとって不測の損害はない。(②)
以上より、例外的に申立事項と異なる判決をすることが認められ、本問の引換給付判決をすることが認められる。
2、課題2
(1)Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることは、処分権主義(246条)に反せず認められるか。
ここで、かかる判決は、Xが口頭弁論期日において自己の申出額より少ない額が適切であると思っている旨の発言をしていることから、より少ない立退料が認められることもXの合理的意思の範囲内である。(①)
他方で、Yも、このXの陳述を聞いており、口述弁論調書にも記載されていることから、Xの当初の申出額よりも少ない立退料による引換給付判決がなされることも予測可能であったといえる。よって、Yにとっても不測の損害はない。(②)
(2)以上より、本問の上記の引換給付判決は、処分権主義に反せず認められる。
第二
1、
Zに訴訟の承継(50条)は、認められるか。
ここで承継が認められる場合とは、訴訟の係属中に、訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した場合(50条)をいう。
そして、かかる場合は、紛争の主体たる地位を譲り受けた場合に認められる。
2、
本問において、ZはYから本件建物を賃借し引渡しを受けている。
ここで、Xは、当初Yに対して建物収去土地明渡請求の訴えを提起していたが、Zに対して、建物退去土地明渡請求を定立し、訴訟引受の申立てをしている。
確かに両者の請求は、訴訟物が異なる。
しかし、いずれも、本件土地の占有者に対して、本件土地のXへの明渡しを求めるものである。
これは、いずれも被告の占有者としての本件土地の占有を争う地位に基づくものである、
このことからZは、本件土地の占有者としてXから本件土地の明渡請求を受ける地位を譲り受けたといえ、紛争の主体たる地位を譲り受けたといえる。
ゆえに、Zは50条の訴訟の目的たる義務を承継した者といえる。
第三
1、課題1
(1)Zによる本件新主張は、時機に遅れた攻撃防御方法として、却下(157条)がなされる。
承継人は、従前の訴訟状態を引き継ぐのが原則である。
何故なら、従前の被承継人の攻撃防御方法によって、手続きの代替的保障を受けており、不測の損害を被らないといえるからである。また、訴訟状態を引き継ぐことが、訴訟経済に資するといえるからである。
(2)本問において、Y自身が最終期日に本件新主張をした場合、この時点で当事者の争点は、立退料の金額にあるといえ、更新拒絶自体が事前の当事者の合意によって認められない、という事情は無かったことが前提となっている。
かかる状況で、更新拒絶自体が事前の合意によって認められないことを主張する本件新主張は、時機に遅れた攻撃防御方法といえ、却下(157条)されるべきである。
そして、かかる地位を引き継いだZも、本件新主張をすることは時機に遅れた攻撃防御方法として認められず、却下される。
(3)却下決定を容易にするために、Xとしては審理計画(147条の3)を定め、攻撃防御方法を提出すべき期間を裁判所に定めさせる(156条の2)ことが考えられる。これによって、審理計画に沿わないYの攻撃防御方法の却下(157条の2)を受けることが容易になる、といえる。
2、課題2
(1)承継人は、被承継人の訴訟状態を引き継ぐのが原則である。これは、被承継人によって、手続保障が代替されていることの基づく。
もっとも、手続きの代替的保障を受けるのは、被承継人が適切な攻撃防御方法をつくした場合のみである。
したがって、手続保障が代替されていないといえる場合には、承継人は訴訟状態を引き継がないべきである。
(2)本問において、被承継人であるYは、Yの前主Bが更新料の前払いを意味する支払いをしていた証拠となる本件通帳を保管していたにも関わらず、これをXの更新拒絶が認められないことの証拠として提出していない。
これは、Yが、通常つくすべき攻撃防御方法をつくしたとは言えず、Zの手続保障が代替されていたとはいえない。
よって、Zは、Yの提出すべきであった証拠である本件通帳の証拠提出について、時機に遅れた攻撃防御方法という状態を引き継がず、Zが本件通帳の証拠提出をして、Xの更新拒絶が認められないことを主張することは、時機に遅れた攻撃防御方法として却下(157条)されない。
以上
令和三年司法試験 合格者再現答案
令和三年 公法系
公法系 第一問 予想B
第一 規制①
1、
この規制は、国民の顔を隠してデモに参加する自由を侵害し、違憲ではないか。
かかる権利は、表現の自由(憲法、以下省略する 21条)の一つとして憲法上保障される。
そして、かかる権利が、規制①によって制約されている。
もっとも、憲法上保障されるとしても絶対無制約ではなく、公共の福祉(13条)により必要最小限度の制約を受ける。
具体的にいかなる制約が許されるか、合憲性判断基準が問題となる。
2、
ここで、表現の自由は、それを通じて自己の人格の形成発展に役立てるという自己実現の価値と、自己の政治的意思決定に役立てる自己統治の価値を有する重要な権利であり、制約は慎重になされなければならない。
しかし、本問の規制①は、顔を隠して集団行進に参加することを禁止するものであり、覆面での参加自体に特段の表現上の意味はない。
そのため、かかる規制は表現態様に対する規制であり内容中立規制であるといえるため、内容そのものに対する規制ではない。
判例も、表現の時場所方法に対する制約は、表現内容そのものに対する制約よりも緩やかな基準で審査すべきであるとしている。
また、覆面で参加することによって、行動が暴力的になり、周辺住民の平穏な生活を脅かすという危険性が高い。
実際に、覆面によって勤務先等に知られないようになったためにデモに参加したという者もおり、また一部の者はデモにおいて警察に対して暴行行為を行っている。
このことから、制約によって得られる利益は、人の身体の安全に関わるものであり、重要である。
さらに、規制①に反した場合には、罰則規定により処せられるも、過料のみ(骨子第3 2項)であり、比較的軽く、制約は厳しくないえる。
3、
よって、合憲性判断基準は、若干緩やかな基準によるべきである。
具体的には、①目的が重要で、②手段が目的のため実質的関連性のある場合に合憲となる。
そして②の判断においては、(ⅰ)適合性、(ⅱ)必要性、(ⅲ)相当性を考慮すべきである。
4、
本問において、規制①の目的は、周辺住民の平穏な生活の確保及び、身体の安全にあり、重要(①)である。
そして、顔を隠して集団行進に参加することによって、所属先等を知られずに参加できるため、現実的に参加が容易になり、心理的に暴行行為を行いやすくなるといえる。これは、実際に暴行行為を行なった者も存在することからもいえる。
そして、かかる暴行行為により、周辺住民の平穏な生活が害されることを防止する必要性が生じている。
ここで、覆面での暴行がなされた場合、行為者の特定が困難であり全員を逮捕できていないという現実がある。
そのため、かかる覆面でのデモ参加を制約する必要性(ⅰ)がある。
上記のように、顔を隠した状態でデモに参加することによって、匿名の状態になるため、言動が暴力化する傾向にあることから、かかる態様でのデモ参加を禁止することは、暴行行為を抑止する効果が合理的に期待できる。
このことから、適合性(ⅱ)もある。
また、規制①は、顔を隠した状態での集団行進を禁止すのみで、他の態様での集団行進を制約するものではない。その上、覆面という態様自体に何らかの表現上の意味があるわけではない。このことから、相当性(ⅲ)もある。
以上より、規制①は、合憲である。
第二 規制②
1、
規制②は、団体のネット上で自らの意見を表明する自由を侵害し、違憲とならないか。
ここで、かかる権利は表現の自由として(憲法21条)憲法上保障される。
そして、報告義務(骨子第4、2項、1項)によって、かかる権利が制約されている。
本問において、規制対象となる団体に報告義務を課している(骨子第4 2項、1項)に過ぎず、表現内容を規制するものではない、という見解もある。
しかし、かかる報告義務によって、間接的に、SNSを使用した表現内容について萎縮効果が生じるため、表現内容に対する制約がある。
もっとも、かかる権利も絶対無制約ではなく、公共の福祉(13条)により、必要最小限度の制約を受ける。
そこで具体的にいかなる制約が許されるか、その合憲性判断基準が問題となる。
2、前述のように表現の自由は、自己実現の価値、自己統治の価値を有する重要な権利であり、容易に制約されるべきではない。
他方で、かかる制約によって得られる利益は、公共の福祉を害する行為を抑止する点にあるところ、これは人の平穏な生活、身体の安全に関わるものであるため、重要である。
そして、規制の対象となる団体は、公共の福祉を害する行為をした構成員が全体の10パーセント以上存在する団体であり、相当程度限定されている。
また、かかる構成員が一定程度以上存在する団体は、今後も何らかの公共の福祉を害する行為をする蓋然性があると合理的に予測でき、制約の対象とすることは合理的である。
さらに、制約は、観察処分(第4)として、報告義務(第2項)を課し、これに違反した団体を過料に処する(第4項)というものである。かかる制約は段階的であり、緩やかな制約であるといえる。
したがって、若干緩やかな合憲性判断基準によって審査すべきである。
具体的には、①目的が重要で、②手段が目的のため実質的関連性がある場合に合憲と認められるべきである。
3、
ここで、実際に団体の構成員の一部の者が、公共の安全を害する行為(骨子 第2の2)をしており、かかる行為による国民の被害を防止する必要性は高い。かかる被害は、身体の安全や平穏な生活の確保といった重要な権利に及ぶことからも、必要性は高い(ⅰ)といえる。
また、規制対象となる団体は、過去5年以内に公共の福祉を害する行為(骨子第2の2)を行って処罰された構成員が10パーセント以上存在する団体である。かかる団体は利用媒体を通して、公共の福祉を害する何らかの情報を発信する可能性が高い。
このことから、かかる団体を規制対象とすることは、上記の目的達成に鑑み、適合性(ⅱ)もある。
さらに報告義務の対象となる情報は、アカウント等の、サービスの利用者であれば自由に把握できるものに限定されており、住所や氏名、パスワード等の当事者しか知らない情報は対象とならない。
このことから、制約として相当性がある(ⅲ)といえる。
4、
以上より、規制②は目的達成のため実質的関連性がある(②)と認められる。よって、合憲である。
公法系 第二問 予想A
第一
1、問(1)
(1)取消訴訟の対象となる処分性(行政事件訴訟法、以下省略する 3条2項)が認められるか。
ここで、公権力の行為は公定力のもと取消訴訟の排他的管轄に属し、取り消されるまでは一応有効適法として扱われる。
そのことから、処分性は限定的に認められるべきである。
具体的には、国または公共団体が行う行為のうち(①)、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの(②)をいう。
そして、②の判断は、紛争の成熟性、不服申立ての手段の有無、後に続く手続きにおいて救済することで足りるか、等を考慮して行うべきである。
(2)本問において、本件不選定決定は条例26条に基づき市長がしたものであり、①を満たす点は問題がない。
では、②を満たすか。
ここで、条例は、屋台営業候補者の選定(条例26条)がなされた後、市道占用許可の申請(同8条)及び許可(同9条)がなされることを予定している。
このことから、本件不選定決定後、市道占用の不許可の段階で取消訴訟を提起しても、Bの救済として十分であるように思える。
しかしながら、不選定決定がなされた場合は、ほぼ不許可決定(同9条)がなされることが明らかである。また、不選定決定(同26条第1項)がなされると、これに対する不服申立て手段は、条例上無いが、かかる決定を受けた者を救済する必要性は高い。
以上より、本件不選定決定に、処分性が認められる。
2、問(2)
訴えの利益とは、当該訴えを提起し本案判決を得るための必要性ないし実効性である。
本問において、Bの訴えの時点で、Cに本件候補者決定がなされている。
このため、Bの訴えにより、Bへの不選定決定が取り消されても、Bが選定されることは無く、訴えの利益は無いのではないか、問題となる。
ここで、放送局の開設免許に関する判例は、限られた電波を誰にどのように配分するか、という性質上、特定の者に開設を認められるならば他の者には認められないとした。かかる事情から、特定の者に開設免許を認めた後も、他の不許可が取り消されることにより、既存の開局免許も取り消される可能性があるため、既に開局免許の許可が他の者になされている時も、不許可決定について訴えの利益が認められるとした。
3、
本問においても、本件区画において候補者として決定を受けるのは、一人であり、Bが不選定決定を受ける一方で、Cが選定決定を受けている。
ここで、Bへの本件不選定決定が取り消された場合にはCへの選定決定についても影響を及ぼし選定決定が取り消される可能性がある。その場合、Bが選定決定を受ける可能性もある。
よって、Bに、本件の訴えを提起し本案判決を得る実効性ないし必要性があるといえ、訴えの利益が認められる。
第二
1、
本件不選定決定の取消訴訟において、Bは、本案の違法を主張する際、本件不選定決定は市長の裁量違反だと主張する。
本件不選定決定の根拠法規は、条例26条であり、この趣旨は条例25条で規定されている、まちににぎわいや人々の交流の場を創出し、観光資源としての効用を発揮することである。
もっとも、この規定のみからは、裁量の有無及びその基準が明らかでない。
かかる法をうけて施行規則において、選定基準(規則19条)を定めている。
ここで、規則は、「A市らしい屋台文化を守る」、「新たな魅力」の「創出」(2)や「まちの魅力を創出」(4)といった、抽象的な文言で規定している。
またこの判断には専門的技術的知識とが必要であるといえる。そのため、要件裁量が認められる。
もっとも、裁量があるといえど、考慮すべき事情を考慮せず考慮すべきでない事情を考慮し又は不当に過大に考慮した結果、著しく妥当性を欠く結論に至った場合には、裁量違反(30条)となる。
2、
ここで他人名義営業者は、長年にわたってA市の観光資源や街の賑わい、防犯効果に寄与していた。このことから、昨年制定された本件条例によって規制されたとしても、その違法は直ちに悪質なものとはいえない。
そしてBは、本件区画で屋台営業を行なってきた実績から屋台営業候補者に選定されることについて合理的期待を有していた。また、Bはかかる屋台営業に生活を依存していたといえ、かかるBには、その後の職探しのため経過措置等何らかの配慮が必要であったといえる。
本問において、市長はBに対し本件不選定決定をしているが、この際にBの被る不利益について何らの配慮もなされておらず、Bに今までの職業を失うという多大な不利益を生じさせる決定をしている。
かかる事情から、本件の市長の決定は、考慮すべき事情を考慮せず、また比例原則に反する。
よって、裁量違反が認められる。
3、
(1)次に、市長が、委員会の申合わせに反して、本件の決定をしたことが、裁量違反とならないか。
ウェブ上の募集要項及びそれに基づく本件指針の運用の申合わせは、法令を受けて規定されたものでなく、行政規則ではない。しかし、条例25条の決定をする上で、参考にすることが予定されており、裁量基準であるといえる。
そして、裁量基準がある場合、それが合理性を有する限りにおいて、当該裁量基準にしたがった判断が裁量違反とならないのが原則である。
もっとも、個別的考慮事情がある場合には、当該事情を考慮した判断をすべきであり、これをしない判断は裁量違反となる。
(2)本問において、ウェブ上の募集要項は、法25条の応募者は営業希望場所を明記した応募申請書を市長に提出し、委員会が本件指針に従った審査の上推薦し、市長が選定する、としている。
そしてウェブ上の本件指針は、規則19条各号の審査に25点ずつ配点し各号の審査において考慮すべき要素を例示している。
また、本件の申合わせは、他人名義営業者が本件条例の施行後6ヶ月以内に新たな店舗や仕事を探すことが困難であることに鑑み、特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者が規則19条各号の審査において加点されるというものである。
かかる運用は、19条各号の「まちのにぎわいや人々の交流の場を創出」(4)「市民、地域住民」に「親しまれ」る(2)の趣旨に沿うものといえ、合理性を有する。
かかる裁量基準は、法を受けた選定基準(規則19条)の趣旨に沿うものであり、合理性を有する。
したがって、当該裁量基準に沿わない判断は、原則として違法(30条)である。
(3)本問において、市長は、委員会から推薦されたBについて不選定の決定をしている。この場合、個別的考慮事情がなければ裁量違反である。
そしてかかる市長の判断は、市長は選挙の際の公約を達成するという政治的目的のためにしたものであり、これは他事考慮による判断であるといえる。
よって、考慮すべきでない事情を考慮しており、その結果著しく妥当性を欠く結論になっているといえる、裁量違反(30条)がある。
4、
次に、手続の違法について主張する。
本問において、不選定決定は、申請に基づく処分であるため、行政手続法の5条以下の手続き的制約に服する。
審査基準を公示する必要がある。(行政手続法5条)
かかる基準は、法を受けた規則19条の選定基準及びウェブ上の募集事項によって、明らかにされているといえる。
よって、この点に違法は無い。
また、処分の際、理由を提示する必要(8条)がある。
ここで、理由の提示は、被処分者をしていかなる法適用関係のもと当該処分がされたかを認識できる程度のものであることが必要である。
市長が、本件指針の運用の申合わせに反して、本件不選定決定をした理由について説明していない。
本問において、本件不選定決定の際、被処分者のBをして、いかなる法適用関係のもと当該処分がなされたか、知らしめる程度の理由の提示はなされていない。
よって、手続上の違法があるといえる。
以上