予備試験を地方で独学受験やってみた。そして受かった。

予備試験を、東京から遠く離れた地方で、予備校の答練を使用せずしました。

自作小説 ーーー哲学的思考『弁護士と舞台俳優』

趣味の小説について、一部公開します。

 

ー哲学的思考『弁護士と舞台俳優』

それぞれは、まるで、光と影のようであった。

弁護士が裏で、マネジメントなどをしていた。チケットの代金設定、各方面、広告やプロモーション動画運営などの契約、そして著作権違反等について、チェックしていた。

いつしか、弁護士が、現場でも重要な役割になった。

俳優は、プライベートでは、地味なおじさんのようになっていた。10年以上前から使っている黒いキャップに、着古した感じのパーカーにジャージのズボンを履いていた。それが彼の普段の格好であった。その姿は、どことなく、やさぐれた印象を、見る者に与えた。

一方、弁護士は、日々頭を使っているために若々しかった。上下ジャージを着て、朝のウォーキングをしていても、

俳優は、肉体は、日頃から鍛えていたために引き締まっていたが、顔の表情や皺から年齢を重ねていることが、半ば残酷なほど見てとれた。

ある時、二人で、海外へ研修旅行に行き、舞台を鑑賞することになった。

事前に、舞台監督らにご挨拶にうかがっていたからか、舞台の人が最後のカーテンコールで二人を紹介した。

外国で有名な俳優とその代理人が来てくれています、と。

紹介された二人は、同時に立ちあがって軽く会釈するだけの挨拶をした。

その後、通りで、ファンと思しき人達に囲まれることになった。

大勢の人達が、握手を求めた。

求められた人間は、それに応じた。

 

地味なおじさんには、見向きもしなかった。

スーツをきた地味なおじさんは、表情を変えず、静かに見ていた。

カジュアルな格好の方は、若々しく、愛想も良かった。

まさにジェントルマンの振る舞いを見せていた。

後で、ホテルの夕食を一緒に取っている時に、今日のことについて話しかけた。

俳優、「さすが、こんな異国の地においても、上手くやってくれたな、」

弁護士「いいや、それほどでもぉ、いつもあなたを見ていますから」

俳優「あんたこそ、真の俳優だよ。」

弁護士「まぁ、そうかもしれません。時に相手を欺かなくてはなりませんから。良い訓練をさせて頂きました。いつものあなたの人気を見ているからです。」

俳優「僕も、あなたの気持ちが分かって良かったよ。これからも、ありがたく思いながら、俳優業を続けていきたいんだ」

弁護士「にしても、いつからだろうな。こうして、二人でいる時に、どちらが俳優でどちらが弁護士か説明しなくても、勝手に周囲が逆のバージョンで認識されるようになったのは。」

俳優「随分前じゃないかな。気がついた時にはそうなっていたよな。もしかしたら、それが、僕らの本当の適性を表しているのかもしれないな」

 

弁護士「ははは、そうかもしれないな。まぁ何に自分の適性があるかなんて、やってみないと分からないものだよ。

もし、適性が無かったとしても、何とか仕事はできるものだよ。自分の経験から分かるようにな』

 

俳優「たしかに、やってみないと分からないし、たとえ適性があったとしても、人生で失敗したり、上手くいかなかったりすること、たくさんありますよね。先生も、この仕事向いてないな、と思うことありますか」

 

弁護士「まあね。長くやっていたら何度かは、あるよね。でも、そこは悲観していないんだ。何故なら、法律というものは、現実の社会に応じた解釈適用がなされるべきものだから、現実の社会というものがある限り、必要とされる存在だと思うんだ。自分自身をアップデートしている限り、仕事はあるだろうし、既存の職業の枠にとらわれずに物事を考えていたら、もしかしたら既存の職業の概念を変えるほどのことが出来るかもしれないと思うんだ。それは、俳優も同じ、というか、むしろ顕著に表れるんじゃないかな。俳優は、時に時代を映す鏡にもなるのだから。昔の俳優と、今の俳優では、求められるものも、社会に与えるものも、異なると思うんだ」

 

俳優「あなたのおかげで、人生に深みが増した気がするんだ」

 

弁護士「私もあなたのおかげで、華やかな世界に生きる俳優としての視点を手に入れることができました。一般に、俳優というのは、華やかな印象がありますが、実際には、一般の人以上に地味な努力が必要なのだと感じました。」

 

俳優「たしかに。自分は地味な努力をするのが当たり前と思っていたのだけど、一般の人はそれを特別なものとしてみていて、さらに僕のことを特別な存在として見ているのだから、驚きだよ。俳優こそ、視聴者がいないと成り立たない職業で、視聴者の方々の恋愛感情を、影で支えている存在じゃないか、と思うんだ」

 

弁護士「たしかに。そもそも、光と影の定義も危ういと思うんだ。一般に、人に見られる職業が光で、人に見られない職業が影、と何となく皆思っているけれど、実際の生活を考えると、そうとも限らないと思うんだ。俳優であっても人に見られる時間というのは、生活のごくごく一部だし、しかもその時間すら照明や衣装やメイクによって作り上げた虚構なのだから。虚構に映えるように、ジムで鍛えたり走ったりはするけれど、それらのことは、ビジネスマンでも一定程度、すると思うんだ。」

俳優「そう。『虚構』という言葉を、今では前向きに捉えることができているんだ。多くの人は、虚構によって、活力が沸いたりするのだから」

 

弁護士「本当に、そうだよね。もしかしたら、この世で事実と思われていることすらも、虚構なのかもしれない。例えば、何らかの会見で、弁護士が、大勢の記者の前で話す時に、俳優以上に、衣服に気を使い、台詞とも言える言葉にも気を使う。そして、報道されて場合によっては、写真だけではなく、その一言一句が新聞に掲載されることもあるのだから」

俳優「そう考えると、やっぱり、俳優が光で、弁護士が影とは一概には言えないよね。実際の生活を営んでいると、むしろ僕は、弁護士が花形で、俳優は一般の人に見つからないように影を潜めるようにして生活しているんじゃないかな、と思うんだ」

 

弁護士「そう考えると、職業とはあくまで表層的なもので、子供の頃は『何になりたいか』よりも、『人間として、どうありたいか』の方を考えて生きるのが結果的に将来のためになると思うんだ。まぁ、僕は15歳くらいからそう思っていたんだけどね」

 

俳優「それを観念上のものとして認識しているか、自分の体験によって証明できたか、という違いは大きいよね。幸運にも、僕らはそれを経験によって学べたけれど、一生気づかずに、世間の固定観念を持ち続けてしまう人がいるよね」

 

弁護士「そう、それはそれで、気の毒なことだと思う。ただ、この世の中の教育にも原因があると思うんだ。学校で、将来何になりたいか、教師が質問する際に、生徒に対して職業を連想させてしまうんだ。それは良くない、と思うんだよね。どんな職業でも、ダメな人間入るわけだから」

 

俳優「そういうことを、弁護士の君が言ってくれて、本当に励まされるよ。職業、『俳優』って言ったら、現実的にはダメな人間の方が圧倒的に多いわけだから。『弁護士』と言われると、少なくとも司法試験には受かっているわけだし、職業威信も高い。その分責任も重くて、大変な仕事な訳だけれど、それでも、たまに社会の底辺の人間がするような卑猥な行為をして、逮捕されている。そういうのをニュースで見ると、人間、職業によって完全に信用はできないんだな、と思わされるんだ」

弁護士「まさにその通り。『弁護士』とか『大学教授』とか、『医者』のような立派な職に就いていなくても、素晴らしい人、立派な人は、たくさんいるわけだから。本当に、人によるのだと思うんだ」

 

弁護士「世の多くの人は、なんとなく、俳優は容姿端麗で、独自の世界観をもった人で、弁護士は真面目で堅実、という印象をもっているでしょうが」

 

俳優「僕も、自分が俳優になって、周囲を見渡して思ったのですが、容姿そのものに恵まれている人は、意外と少ないのです。むしろ、容姿にコンプレックスをもっている人が殊の外多かったのです。むしろ、弁護士さんの方が、容姿が整っていたり、自信が滲み出ていて、カッコ良い人が多い気がします」

 

弁護士「その点については、僕も思うところがあります。この仕事に就いてから、周囲を見渡してみて、思ったのは、意外と美男美女が多いな、ということです。皆、内面に自信と謙虚さを持っている、と感じます。そういう内面が外観に現れているのだと思います。

同時に、俳優の方が、容姿にコンプレックスを持つ人が多い、というのも納得できます。

俳優さんは、やはりまずは外見が注目されますから、否が応でも自分の外見が気になってしまうと思います。その点、弁護士は、外見で勝負しなくて良いので、皆あまり外見にコンプレックスを抱かない傾向にあるのだと思います」

 

俳優「たしかに俳優は、やはり容姿が良い方が注目されますから、多くの俳優は容姿を意識せざるを得ないのだと思います」

 

弁護士「僕もそう思います。俳優になりたがる人こそ、容姿にコンプレックスがあり、だからこそ演技や自分の見せ方を工夫したり、自分の魅力を磨く努力をするのだと思います。

知的職業と言われる弁護士の方が、自分、頭悪いと思っている。

俳優さんの方が、大学に行っていないのに、頭良いと思っている。これは一見不思議なことのように思えますが、理にかなっています」

 

俳優「ガリ勉になりたくなくて、カッコ良くなりたくて、俳優を目指すわけだから。

弁護士こそ、自分のことをガリ勉じゃなくてイケてる、と思っている場合がある、ということだよね」

 

弁護士「そうそう、そういうことって、意外とよくあるんだよね。だから、職業だけで、その人の性格などは一概に定義できないんだよね、実は。一般的には、職業によって、その人のスペックなどが定義されがちだけれど、真逆となっている場合も多々あるということなんだよね。まぁ、こういうことは私も大人になってから知ったことだけれど」

 

俳優「そうそう、そういう現実を知ることができるのは、その分野で当事者として活躍する者の醍醐味とも言えるかも知れないよね」

 

 

ーーーーー完成版はnoteにて。

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