令和三年司法試験 合格者再現答案 刑事系
令和三年 刑事系
刑事系 第一問 予想 A(またはB)
第一 設問1
1、丙の罪責
(1)丙について、甲がB店内の時計を持ち去った行為について、窃盗罪の共同正犯が成立しないか。
まず、甲について窃盗(235条)が成立するか、問題となる。
窃盗罪の成立には、「他人の財物」を「窃取」したことが必要である。
ここで、窃盗罪は、究極的には財産の所有権を保護するものであるが、そのために一応の占有を保護するべきであるから、「他人の財物」とは、「他人の」占有する「財物」をいう。
甲が持ち去った対象である腕時計は、甲にとって「他人の」占有に属するか。
甲と意思を通じて行為を援助した丙に占有が認められる場合には、甲にとって「他人の」占有といえない。
ここで、甲と意思を通じた丙はB店の副店長として、店内の腕時計を含む商品の売上金を管理している。
しかし、店内の腕時計の入ったショーケースの鍵は、丙のみならずCも所持している。また、商品の店外への持ち出しについて丙に権限はなく、Cの承認を得る必要があった。
さらに、店内にたとえ丙しかいなくても、防犯カメラによって店内の様子が撮影録画され、店内の様子が把握されていたといえる。
このことから、店内の腕時計は、丙の占有のみならず、Cの占有も認められる。
したがって、腕時計は「他人の」占有する「財物」であると認められる。
(2)そして、甲が、丙と意思を通じて強盗を装い、B店から腕時計を持ち去った行為は、他人の意思に反して他人の占有を排除し自己の占有に移す行為といえ、「窃取」したといえる。
(3)丙は、甲と意思を通じて甲が店内の腕時計を持ち去ることを、計画し、実際に強盗を装うことによって、援助している。
このことから、丙には共同実行の意思及び共同実行の事実が認められる。
ゆえに、丙には窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立する。
2、甲の罪責
甲の行為は、上記のように窃盗に該当する。
そして、甲は丙との計画のもと、自らB店の腕時計を持ち去る行為をしている。自らも腕時計を換金することによって利益を得ることを目的としており、正犯意思が認められる。
このことから、甲には窃盗罪(235条)が成立する。
3、乙の罪責
(1)乙について、窃盗罪の共謀共同正犯が成立しないか。
当初の甲乙間の計画においては、店から時計を強取することを内容としており、乙は強盗を予定していたといえるため、問題である。
まず、乙について、共謀共同正犯が成立するためには、①共謀と②それに基づく行為が必要である。
そして(ⅰ)正犯意思と(ⅱ)意思連絡があった場合には、①共謀が認められる。
乙は、自らも金に困り、店から時計を奪い、それを換金することで利益を得ようとしていた。また、実際に甲がB店に向かう際に、車で送っていくという重要な役割を果たしている。このことから、正犯意思(ⅰ)がある。
また、これについて甲との間で意思連絡もある(ⅱ)。
よって共謀(①)が認められる。
また、甲は、B店に入り、時計を持ち去っている。これは、店員の丙の協力を得ており、暴行脅迫による強取という手段を用いていない点で、共謀の内容とは異なる。しかしながら、店から時計を持ち去る、という行為の主要な部分において、同一である。
よって、共謀に基づく行為(②)があったといえる。
(2)もっとも、乙は、甲との共謀により強盗(236条1項)の故意(38条1項)を有していたのであり、窃盗の故意は無かった。したがって、窃盗罪について、故意が阻却されないか。
そもそも故意責任の本質は、規範に直面したにも関わらずあえて犯罪行為に及んだ道義的責任非難にある。
そして規範は構成要件ごとに与えられている。
とすれば、主観と客観で構成要件に重なり合いが認められる場合には、その範囲で恋が認められるべきである。
ここで、乙の予定していた強盗と、実際に甲の行為によって生じた窃盗は、財物を奪う手段に、暴行脅迫を用いるか否かという点で異なる。
しかし、店の商品である腕時計を持ち去るという行為態様は同じであるし、腕時計の財産権を侵害するという点で被侵害法益は同じである。
よって、窃盗の範囲で、重なり合いが認められる。
このことから、窃盗の故意が認められる。
以上より、乙には窃盗の共謀共同正犯(60条、235条)が成立する。
4、丁の罪責
丁は、丙から盗品である本件バックを受け取っている。ここで、丁は、受け取った段階で本件バックを盗品であると認識しておらず、これを自己の所有物として譲り受けていない。
そのため、盗品無償譲受け罪(256条1項)は、成立しない。
また丁は、本件バックの保管を頼まれているも、保管開始時に盗品であると認識してしていない。
そのため、盗品保管罪(256条2項)も成立しない。
第二
1、問(1)
(1)この見解は、甲は当初の暴行について丙との共謀があったが、その後丙から暴行を受けて気絶したことによって共謀関係が解消され、その後の丙の暴行について責任を負わない、とする。
共犯の一部実行全部責任の根拠は、互いに物理的心理的に影響を及ぼし合い犯罪結果の危険を惹起する点にある。
そこで、共犯の離脱には、物理的心理的因果性が排除されていることが必要である。
本問において、甲は、当初乙への暴行を共謀していた丙の行為をやめさせようとしたところ、乙から暴行を受けて気絶している。
この場合、それ以後の乙の行為について物理的心理的に影響を及ぼすことは出来ないといえ、共犯の離脱が認められる。
したがって、甲は、気絶後の乙の暴行について責任を負わない。
本問の傷害結果について乙のみが責任を負い、甲は責任を負わない。
(2)同時傷害(207条)の成立には、複数の暴行が同一機会になされる必要があるところ、本問において、当初の甲と丙による乙への暴行と、その後の丙単独での暴行は、甲の気絶により、断絶されている。
よって、両者の暴行が同一の機会になされたとはいえず、同時傷害は適用されない。
2、問(2)
(1)この見解は、甲と丙との、乙に対する暴行についての当初からの共謀が、甲の気絶によって解消されていない、とする。
ここで、共犯の離脱は、物理的心理的に、その後の共犯の行為に影響を及ぼさないといえる場合に認められる。
本問において、甲は当初丙との間で乙に対して暴行を行うことを共謀しており、その後丙の暴行により気絶しているものの、その後も乙の暴行をやめるよう効果的な説得はしておらず心理的影響は除去していない。
よって、共犯の離脱は認められない。
ゆえに、甲の気絶後の丙の暴行について、甲の共謀共同正犯が成立する。
その結果、甲には、乙の傷害結果に関して刑事責任を負う。
(2)甲が、暴行の責任を負うため、同時傷害の規定(207条)は適用されない。
刑事系 第二問 予想 A
第一
1、①について
(1)本問の差押えは、捜索差押え許可状に基づくもの(218条1項)である。
かかる場合、本件の名刺の差押えが、「本件に関係ありと思料される」「名刺」の差押えである場合に、適法となる。
本件の名刺は、「丙組若頭丁」と記載されているところ、甲が乙と共謀し及ぼんだとされる被疑事実である本件住居侵入強盗と、「関係あり」といえるか、問題となる。
(2)本問において、本件住居侵入強盗を認めている甲は、乙の指示で犯行を行なったと自白している。
そして甲は強盗によって取得した500万円を乙に渡したこと及び甲と乙のアジトがあることを供述している。
さらに、乙の背後には指定暴力団である丙組がいて、乙はその幹部に、犯行で得た金の一部を貢いだ旨、供述している。
これらのことから、丙名義の名刺は、甲が乙に渡した、強盗による現金の渡った先を突きとめられる可能性のあるものといえ、本件住居侵入強盗と、「関係あり」といえる。
したがって、本件の差押え①は、捜索差押え許可状に基づくものとして適法である。
2、②について
(1)捜索差押え許可状による差押えは、いわゆる包括的差押えであり、違法とならないか問題となる。
ここで差押えは、令状に記載されたものとの関連性が認められる限りにおいて、差押えが認められるのであって、包括的差押えは原則として認められない。
しかし、①令状記載のものと関連性のあるものが存在する蓋然性が認められ、②その場で確認したのでは証拠が抹消される等により現実の差押えが出来ないといえる場合には例外的に包括的差押えが認められる。
(2)本問において、対象となったUSBメモリは、甲が言うアジトにあったものであり、甲はアジト内に強盗のターゲットになる名簿データが保存されたUSBメモリがあると言っていた。
このことから、このUSBメモリ内に、本件住居侵入強盗の被害者Vに関する情報が入っている蓋然性が高い。(①)
さらに、甲はアジト内のUSBには8桁の数字のパスワードがかかっており一度でも間違うと初期化されてしまうと言っていた。
そして、乙が捜索差押え現場で言ったパスワードは、『2222』であり、甲が言っていた8桁の数字ではないため、これを入力すると誤ったパスワードにより初期化される危険性が高い。
そのため、その場で確認したのでは証拠が抹消され、現実の適切な差押えができない可能性が高い。(②)
(3)以上より、包括的差押えは認められ、差押え②は適法である。
第二 問(1)
1、
本件メモが伝聞証拠に該当する場合には、伝聞法則(320条以下)により原則として証拠能力が排除される。
そこで、伝聞証拠該当性が問題になる。
そもそも伝聞法則とは、供述証拠が知覚、記憶、表現、叙述の間に誤りが介在する危険が高いことからこれを反対尋問によって是正する必要があるところ、これを経ない証拠を排除し、もって誤判防止を図る点にある。
とすれば、伝聞証拠とは、公判期日、公判準備期日以外になされた供述であっ
て(①)その供述内容が真実性の立証対象となっているもの(②)をいう。
そして、立証対象は、立証趣旨との関係で相対的に決するべきである。
本問における立証趣旨は、甲乙間における共謀であって、かかる立証趣旨は立証対象として妥当であり、認められる。
本問のメモは乙によって作成されたものであるから、これは乙の供述証拠と同視できる。そしてこれは公判期日外(①)においてなされたものである。
2、
本件メモ1の内容は、本件事件と、被害者、犯罪の行為態様、被害の内容において同一のことが書かれている。
かかるメモを閲覧、保有できるのは、事件に関与した犯人のみであるといえる。
そして、本件メモ1は、乙名義の建物内にあったUSB内にあったデータである。その上、乙が作成したものであることが判明している。
また上記の通り、甲は本件住居侵入強盗に及んだことを自白している。
3、
このことから、本件メモ1の存在自体が、甲と乙の共謀を推定するといえ、供述内容が真実性の立証対象(②)となっていない。
よって本件メモ1は伝聞証拠ではなく、証拠能力が認められる。
第三 問(2)
1、
本件メモ2は、伝聞証拠に該当し、相手方の同意(326条1項)のない本問においては伝聞法則(320条以下)により、証拠能力が排除されないか。
本件メモ2は、甲が作成したものであることから、甲の供述証拠と同視できる。
2、
そして、本件メモ2の内容は、本件住居侵入強盗の被害者である、「V」、被害の対象である「タンス」預金「500万円」、及びその場所である「台所しょっきだな」が記載されている。
さらに、Vが犯人に電話で伝えた財産といえる、「よきん2000万円」の記載がある。
また、犯人は、実際の犯行態様として、Vに催眠スプレーを吹き付け、ロープで身体を後ろ手に緊縛し、ガムテープで口を塞いでいることから、メモ内の「さいるいスプレー」「ロープ」「ガムテープ」「後ろ手」「口だけ」といった記載は、犯行態様についての記載であるといえる。
また、「乙から指示されたこと」との記載があることから、かかる犯行についてのメモが、実際に乙から指示されたことであれば、記載内容の真実性が立証対象となっているといえる。
このことから、本件メモ2は伝聞証拠であり、伝聞例外(321条1項3号)に該当しない限り証拠能力が認められない。
ここで、甲は、乙との共犯として本件被疑事実で起訴されているも、乙の公判においては、甲は「被告人以外の者」(321条1項柱書)であるため、321条1項3号の該当性について以下検討する。
3、
まず、現状において甲は、乙との共謀について供述を拒否しており、供述が得られる可能性は乏しい。このことから、供述不能状態にあるといえる。
また、本件メモ2は、甲と乙との共謀を推認する証拠であるところ、乙は共謀を否認しており、「犯罪の事実の証明に欠くことのできないもの」といえる。
さらに、甲は、本件メモ2を誰にも強制されずに書いている。その上、記載内容は、本件の客観的な被疑事実の犯行態様と同一である。
このことから、この記載は、「特に信用すべき状況の下にされた」(321条1項3号ただし書)といえる。
以上より、伝聞例外が認められ、本件メモ2の証拠能力が認められる。
以上