令和三年司法試験 合格者再現答案 民事系
令和三年 民事系
民事系第一問 予想 BからA
第一
1、アの主張
この主張は、甲をDが即時取得したことにより、Aが所有権を喪失したという主張である。
即時取得(民法、以下省略192条)とは、①平穏②公然③善意④無過失に、⑤取引行為によって⑥動産の占有を開始した場合に認められる。
ここで、①から③は、186条によって推定される。④は188条によって推定される。
本問でも、①から④は、推定され、これを覆す事情はない。
また、BD間で、売買契約という取引行為(⑤)がなされている。
そして、指図による占有移転(184条)によって、甲についてBからDに占有が移転している。
これは、動産占有を開始した(⑥)といえる。
よって、Dによる甲の即時取得が成立する。
2、イの主張
この主張は、指図による占有移転では、⑥動産の占有を開始したとはいえない、という主張である。
しかし、指図による占有移転でも、第三者である直接的に占有している者の認識をして、客観的に占有の移転が明確になっていると言えるため、⑥動産の占有を開始したと言える。
3、ウの主張
この主張は、盗品について即時取得をした者がいる場合でも、盗難から二年間の間は元の所有者が、占有の回復請求をすることが認められる(193条)、ということに基づく。
4、請求1について
Aは、甲を所有していたが、その後盗難にあい、上記のアイで検討したとおりDが即時取得している。
もっとも、盗難の時から二年以内である本問においては、ウで検討したように、Aは、Dに対して占有の回復請求が認められる。
よって、請求1は、認められる。
5、請求2
Aは、Cに対して、占有の開始から返還時までの使用利益相当額について不当利得返還請求(703条)をする。
Cが占有することにより「利益」を得る反面で、Aが使用ができないという「損失」を被っている。
もっとも、Cの使用利益が「法律上の原因」を欠くといえるか。
ここで、回復請求が可能な期間(193条)は、被害者である元の所有者に、所有権が帰属する。
よって、回復請求の相手である占有者の使用利益は、「法律上の原因」を欠くといえる。ゆえに、その使用利益相当額について、回復請求をする者の、不当利得返還請求は、認められる。
本問でも、Aの上記不当利得返還請求は、認められる。
第二
1、問(1)
契約①によるEの債務は、月額報酬60万円で、Eが、令和3年6月から10月までAの事業所で出張講座を開講するというものを内容とする。
この契約の性質は、EがAの指揮監督命令に服するものではなく、仕事の完成を目的とするものではない。Eが、契約の内容となる行為をするものであり、委任契約(643条)であるといえる。
2、問(2)
(1)請求3について
Eは、委任契約に基づく報酬請求権(648条1項)として、8月分の報酬60万円の支払いをAに求める。
ここで、Eはすでに8月分の講座を行なっているため、契約上の債務の履行後(648条2項)であるといえる。
これに対して、Aは、仕事の割合に応じて報酬請求が認められる(648条3項2号)以上、Eは、受講生がついていけない講座を行っており、予定された仕事を全ては履行しておらず、月額報酬全額を請求できない、と反論する。
しかし、受講生が本件講座についていけなくなったのは、受講生側に責任があり、Eには契約内容となった講座を予定通りに行ったのみで、責任は無い。
よって、Eは契約上の債務の履行を終了したといえ、上記の報酬請求が認められる。
(2)請求4について
Eは、自己に不利な時期に委任契約を解除された(651条2項1号)として、当初予定された期間の報酬分について、損害賠償請求をする。
Aは、Eの本件講座に受講生がついていけない、という、やむを得ない事情があった(651条2項)ため、損害賠償請求は認められない、と反論する。
ここで、本件講座の内容は、契約①の締結時の認識を基礎として、不相当なものではなく、解除がやむを得ない事情があったとはいえない。
また、Eは、当初予定した期間の間、本件講座を開講して、その報酬を受け取る合理的期待を有していたことから、期間終了前のAの解除は、Eに不利な時期になされた、といえる。
よって、Eの損害賠償請求は認められる。
第三
1、問(1)
Fは、本件債務を主債務とする保証契約(契約③)をHとの間で締結している。
この契約は、書面でなされており有効(446条2項1項)である。
もっとも、契約②の弁済期から五年が経過しており(166条1項1号)時効期間が経過している。
また、Fは連帯保証人であり、消滅時効の援用権を有する「当事者」である。
よって、Fは、時効を援用して、Hの請求を拒むことが認められる。
ここで、主債務者Aが本件債務の時効期間経過後に、Hに弁済の猶予を求める書面を送付しているが、これは合意(151条1項)にも、催告(150条)にもあたらない。また、時効の放棄にあたるとしても、連帯保証人のFには影響を及ぼさない。
よって、Fの時効の主張は認められる。
なお、100万円については、別個の契約によるもので、Fはこれを主債務とする保証契約を締結していない。よって、かかる100万円について、支払を拒むことができる。
2、問(2)
(1)
時効期間経過後、FH間の合意によってFがHに300万円を支払い、残額の免除を受けている。
これによって、主債務者A、他の保証人Gは、Hに対する債務を免れている。
そこで、まずFはAに対する300万円の求償請求をする。
Fは、委託を受けない保証人であるところ、主債務者に対して現に利益を受けた限度で求償請求をすることが認められる。(462条1項、469条の2第1項)
Aは、本件債務について消滅時効が完成しており、本件債務の免除について現に受けた利益が無い。
よってFのAに対する求償請求は、認められない。
(2)
Fは、他の保証人Gに対して、自己の弁済額を保証人の頭数で割った150万円の求償請求をする。
共同保証人は、求償請求が認められる。(465条1項、442条)
Fは負担分を超えて弁済しているため、他の保証人Gへの求償請求が認められる。
民事系第二問 予想 A
第一
1、甲社は、乙の履行請求を拒むため、本件連帯保証契約は利益相反取引(会社法356条1項3号)に該当し、取締役会の承認(365条1項)を得ていないため、違法無効である、と主張する。
そこで、まず利益相反取引に該当するか、検討する。
2、
Aは、甲社の代表取締役であり、甲を代表して、乙との間で、本件連帯保証契約を締結している。
ここで、本件連帯保証契約は、Aの乙に対する、金銭消費貸借契約に基づく債務を主債務とするものである。また、甲は、Aからかかる保証契約について何ら保証料を支払っていない。
このことを考慮すると、かかる連帯保証契約は、甲社の代表取締役Aが利益を得る反面、甲が損失を被る、という関係にあり、「株式会社」甲と、「取締役」Aとの「利益が相反する」(356条1項3号)といえる。
よって、本件連帯保証契約は、利益相反取引に該当し、取締役会の承認決議(365条1項)を得なかった点で、違法である。
3、
では甲は、本件連帯保証契約の違法による無効を、乙に対抗できるか。
ここで、取締役会の承認決議の不存在は、内部的事情であるため、通常取引の相手は、かかる事情を知り得ないことから、無効を対抗できないのが原則である。
しかし、取引の相手が当該違法事由について、悪意又は有過失である場合には、例外的に違法無効を対抗することが認められる。
本問において、乙は、本件連帯保証契約について、甲社の取締役会議事録の写しを求めているものの、Aからは、写しの代わりとして本件確認書の交付を受けたのみである。
そして、Aは取締役会議事録は、金融機関以外の相手に公開しておらず、他の取引先にも見せたことがない、と説明しているものの、乙としては、上記の利益相反取引という性質に鑑みると、議事録の写しによって取締役会の承認決議の存在を確認する必要性が高い。
にもかかわらず、乙社を代表するBは、Aが知名度の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし、乙社の事業規模が小さいことからAの機嫌を損ねて取引の機会を失うことを恐れて、議事録の確認をあきらめている。
かかる理由は、議事録の確認をあきらめ合理的理由ではなく、乙は必要な注意義務を怠ったといえる。
このことから乙は、過失が認められる。
ゆえに甲は、乙に無効を対抗することが認められる。
4、
さらに、本件連帯保証契約は、「多額」の「借財」に該当するため、取締役会の決議が必要である。
保証債務として負う5000万円という金額は、資本金1億円、負債額2億円、当該事業年度の経常利益2000万円という甲社にとっては、会社財政に与える影響が大きく「多額」といえるからである。また、保証債務は「借財」といえるからである。
したがって、この点において、取締役会の決議を経ていないという点でも、違法である。
第二、
1、
Cの本問の訴えにおいて、Cは、本件株式の発行により株主となった者は、株主名簿の名義人Aではなく、現実の出資者であるCであると主張する。
そこで、株主の確定の基準を、名義とするか計算とするか、問題となる。
2、
ここで、画一的な処理による事務処理上の便宜から、名義を基準とするのが妥当であるのが原則である。
しかし、本問の甲社のような非公開会社で、株主も限定的な会社においては、会社が、誰が現実の出資者であるかを把握しているのが通常である。
そこでかかる非公開会社においては、計算を基準とし、現実の出資者が誰であるか、及び議決権行使等の会社における株主としての言動を考慮して、株主を決するべきである。
3、
本問において、本件株式の現実の出資者はCである。
そして、Cが本件株式について剰余金の配当を受け取り、自己の所得として確定申告をしていた。
さらに本件株式についての議決権も、Cの意思表示としてなされていた。
かかる本件株式の乙社内の扱いについて代表取締役であるCは、認識していた。
このことから、本件株式の株主はCである。
よって、本問のCの上記主張は認められる。
第三
1、
Aは本件株式の株主として、本件決議に取消事由(831条1項)があるとして取消を求める訴えを提起する。
本件株主総会は、招集通知がなされている点(299条)については、適法である。
2、
(1)まず、株主D代理人Gの出席を認めなかった点が、株主の代理権行使(310条)の趣旨に反し、手続上の違法(831条1項3号)があると主張する。
ここで、代理人の要件を定款で定めることは、認められる。
本問においても定款で代理人を株主に限るとしており、かかる定款は有効である。そのため、株主以外のGを代理人として認めなかったことは、適法であるように思われる。
(2)しかし、議決権の代理行使(310条)は株主の意思の反映を可能な限り認めるために規定されてたものであり、代理人の要件は、総会屋等の株主総会の適切な運営を妨害する者を排除するために認められるものである。
このことから、定款で定めた要件を満たさない代理人であっても、総会の運営に支障をきたさないと認められる事情のある者については、代理権行使を認めるべきであり、これを認めないことは、310条の趣旨に反し違法である。
(3)本問において、議決権の代理行使をしようとしたGは、弁護士であり、その立場上、株主総会において違法行為をしないことはもちろん不当行為もしないことが合理的に予測できる。
かかるGを、定款で定めた代理人の要件を満たさないという理由で、株主総会の議決行使を認めなかった議長Cの行為は、310条の趣旨に反し違法であり、議長の議事の進行(315条1項)について違法があるといえる。
3、
(1)次に、株主丙を代表して議決権行使をした者が、AでなくFである点が、代理権のない者に議決行使を認めたとして、議長Cの議事の違法(315条1項)がある、といえないか。
(2)ここで、丙社が、株主としての議決権行使を認めていたのは、AではなくFである。
このため株主総会決議において、Fによる議決権行使を認めるべきであるところ、Aの議決行使を認めた点について議長Cの議事進行に違法(315条1項)がある。
4、
さらに、本件修正議案をうけて候補者ごとに採決をするのではなく取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決をした点について、取締役の選任決議の規定(329条1項、309条1項)に反しないか問題となる。
ここで、選任決議において、可決要件を定めたのみで、その方法について候補者ごとに採決することを求めていない。
このことから、本問のように、候補者の二人のうち、いずれかの氏名を記載するという方法による採決によることも認められる。
この点に違法はない。
5、
上記の違法事由が無い場合、Gを代理人とするDの議決権行使が認められ、丙社についてFではなくAによる議決権行使が認められることになる。
その場合、株主総会の出席株主の議決権も数は50万個であり、そのうちCを取締役として選任することに賛成する議決権は10万個である。かかる場合、選任の可決要件(329条1項、309条1項)を満たさない。
よって、上記違法は、裁量棄却(831条2項)されない。
以上
民事系第三問 予想 B
第一 設問1
1、課題1
(1)Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えた立退料の支払との引換給付判決をすることは、処分権主義(民事訴訟法、以下省略する246条)に反し、違法ではないか。
処分権主義とは、当事者の申立事項と判決事項が一致しなければならないという原則である。
これは、私的自治の妥当する私法上の紛争の解決手段としての訴訟手続においても、当事者の意思を尊重するべきであることから、採用される。
(2)もっとも、①原告の合理的意思の範囲内であり、②被告の不意打ちとならない場合には、例外的に申立事項と異なる判決をすることも、処分権主義の趣旨を害さず認められる。
(3)本問において、引換給付判決がなされないとすると、請求棄却判決がなされる。かかる判決は、原告の合理的意思に反する。
原告Xとしては、本件土地上に息子Cの歯科医院用の建物を建築することを望んでおり、申出額よりも多額の立退料を支払ってでも、本件土地の明渡しを求めているといえるからである。
また、本件土地上でXが建築を予定している建物は、歯科医院であり、経営によって相当の収益が得られることが合理的に予想できるため、Xは申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料を支払うことが可能である。
このことから、Xの申出額と相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決がなされることは、原告の合理的意思の範囲内である。(①)
他方で、被告Yは、敗訴により、Xの申出額の立退料と引き換えに本件土地を明け渡すことを予測できたため、それよりも多額の立退料を得ることは、予測できた負担よりも利益が大きい。よって被告にとって不測の損害はない。(②)
以上より、例外的に申立事項と異なる判決をすることが認められ、本問の引換給付判決をすることが認められる。
2、課題2
(1)Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることは、処分権主義(246条)に反せず認められるか。
ここで、かかる判決は、Xが口頭弁論期日において自己の申出額より少ない額が適切であると思っている旨の発言をしていることから、より少ない立退料が認められることもXの合理的意思の範囲内である。(①)
他方で、Yも、このXの陳述を聞いており、口述弁論調書にも記載されていることから、Xの当初の申出額よりも少ない立退料による引換給付判決がなされることも予測可能であったといえる。よって、Yにとっても不測の損害はない。(②)
(2)以上より、本問の上記の引換給付判決は、処分権主義に反せず認められる。
第二
1、
Zに訴訟の承継(50条)は、認められるか。
ここで承継が認められる場合とは、訴訟の係属中に、訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した場合(50条)をいう。
そして、かかる場合は、紛争の主体たる地位を譲り受けた場合に認められる。
2、
本問において、ZはYから本件建物を賃借し引渡しを受けている。
ここで、Xは、当初Yに対して建物収去土地明渡請求の訴えを提起していたが、Zに対して、建物退去土地明渡請求を定立し、訴訟引受の申立てをしている。
確かに両者の請求は、訴訟物が異なる。
しかし、いずれも、本件土地の占有者に対して、本件土地のXへの明渡しを求めるものである。
これは、いずれも被告の占有者としての本件土地の占有を争う地位に基づくものである、
このことからZは、本件土地の占有者としてXから本件土地の明渡請求を受ける地位を譲り受けたといえ、紛争の主体たる地位を譲り受けたといえる。
ゆえに、Zは50条の訴訟の目的たる義務を承継した者といえる。
第三
1、課題1
(1)Zによる本件新主張は、時機に遅れた攻撃防御方法として、却下(157条)がなされる。
承継人は、従前の訴訟状態を引き継ぐのが原則である。
何故なら、従前の被承継人の攻撃防御方法によって、手続きの代替的保障を受けており、不測の損害を被らないといえるからである。また、訴訟状態を引き継ぐことが、訴訟経済に資するといえるからである。
(2)本問において、Y自身が最終期日に本件新主張をした場合、この時点で当事者の争点は、立退料の金額にあるといえ、更新拒絶自体が事前の当事者の合意によって認められない、という事情は無かったことが前提となっている。
かかる状況で、更新拒絶自体が事前の合意によって認められないことを主張する本件新主張は、時機に遅れた攻撃防御方法といえ、却下(157条)されるべきである。
そして、かかる地位を引き継いだZも、本件新主張をすることは時機に遅れた攻撃防御方法として認められず、却下される。
(3)却下決定を容易にするために、Xとしては審理計画(147条の3)を定め、攻撃防御方法を提出すべき期間を裁判所に定めさせる(156条の2)ことが考えられる。これによって、審理計画に沿わないYの攻撃防御方法の却下(157条の2)を受けることが容易になる、といえる。
2、課題2
(1)承継人は、被承継人の訴訟状態を引き継ぐのが原則である。これは、被承継人によって、手続保障が代替されていることの基づく。
もっとも、手続きの代替的保障を受けるのは、被承継人が適切な攻撃防御方法をつくした場合のみである。
したがって、手続保障が代替されていないといえる場合には、承継人は訴訟状態を引き継がないべきである。
(2)本問において、被承継人であるYは、Yの前主Bが更新料の前払いを意味する支払いをしていた証拠となる本件通帳を保管していたにも関わらず、これをXの更新拒絶が認められないことの証拠として提出していない。
これは、Yが、通常つくすべき攻撃防御方法をつくしたとは言えず、Zの手続保障が代替されていたとはいえない。
よって、Zは、Yの提出すべきであった証拠である本件通帳の証拠提出について、時機に遅れた攻撃防御方法という状態を引き継がず、Zが本件通帳の証拠提出をして、Xの更新拒絶が認められないことを主張することは、時機に遅れた攻撃防御方法として却下(157条)されない。
以上