朝と夜
私は一日のうちで、もっとも自分の才能が開花している、と思う瞬間があります。
それは、夜布団に入ってから、寝付くまでの一時間あまりの時間です。
その日、自分がしたことについての反省、戒め、と自分の実力の不十分さに落胆する以上に、
自分がこの世でなすべきこと、その発想達が、次から次へと湧き出てくるのです。
その重層的に湧き出る発想が、「自分を無視しないでくれ、繋ぎとめてくれ」、と必死にせがむので、私もそれぞれそれをノートに書き留めるのに必死になります
。
ただ、もっとも幸せな瞬間は、睡魔に身を委ねて、その抵抗を放棄する瞬間です。
自分には、まだまだできるのだ、という確信と共に意識が薄らいでいく、それはまさに希望への扉を開ける瞬間のようにも思えます。
しかし、夜が明けると最後、その発想達は影をひそめ、枕元に残された、開かれたノートとペンだけが彼らの存在を証明するのです。
私はそれを頼りに、また一日、現実を懸命に生きるのです。
私の頭の中にいる昨夜の彼らは、静止したままで動かないものですから、
私が彼らに似たものを手にして、何とか彼らの動きを呼び戻そうとするのですが、大抵は徒労に終わります。
それでも、彼らは私の人生のペースに合わせて出現してくれているのだと、私は思います。
彼らを頭の中で体験したら、紙に記すことなど、退屈な作業に過ぎないのですが、自分の使命だと思って、私はこれをやめるつもりはありません。
私の愛するモーツァルトも、そのような抵抗をしていた一人である、と思うのです。
彼がこの世で耐えた苦痛から、私が逃げることは彼を愛する者としては御法度であるし、何より彼が私に勇気をくれ、励ましてくれるのです。