斜陽(by太宰治)の感想
個人的には構成力の高さを感じたのは、この作品が一番です。
最も書きやすい「私」(「かず子」という女性)を主人公としていながら、他の登場人物にも、自然と筆者の価値観が投影されているようにも思うのです。
特に、私の弟の遺書の記述においては、これこそ筆者そのものではないか、とすら感じました。
そして時系列においても、ところどころ過去にさかのぼった記述(筆者が小説を書いている時点で既に過去の記述なのですが、その過去の中でも時間的な前後がある)があるのですが、それが全体の流れと調和しているのです。
この点もアマチュアが書くと、時系列が不自然であったり、分かりづらかったりすると思います。
私も、何か(小説化していない)物語を書くとき、時系列をどう表現してよいか、悩むときがあります。
また、一つ一つのまとまりで描かれる内容や表現が彼(太宰)特有のものが出ているのは、言わずもがな、です。
例えば、母の病状(病床)の叙述、「私」による手紙での心境の吐露、などで、人間に対する深い考察がうかがえます。
そして、全体としての構成が不自然なく整っているからこそ、一つの表現が生きているのではないか、とも思うのです。